認知行動療法
認知行動療法という言葉は、行動療法と認知療法の総称として用いる場合と、その両者の要素を持ち合わせた認知行動療法という一技法を示す場合があります。歴史的には、行動療法が中心であった第1世代から、認知的側面も考慮する第2世代の認知行動療法を経て、現在はマインドフルネスなどの仏教思想を取り入れた第3世代の認知行動療法が主流となりつつあります。
1. 行動療法
症状や問題行動を改善するために、条件付けを利用した学習理論に基づく心理療法。
系統的脱感作法、バイオフィードバック 法など様々な技法があります。
2. 認知療法
症状や問題行動に影響している不合理で否定的な考え方に気づき、合理的で肯定的な考え方に
置き換えていく心理療法。ベックの認知療法が標準的療法として広く用いられています。
3. 認知行動療法
認知面(思考)と行動面(症状、行動など)の両者にアプローチする心理療法。第3世代のマインド
フルネス認知療法、アクセプタンス&コミットメントセラピー、弁証法的行動療法などがあります。
現在広く一般的に行われている薬物療法は、原因治療ではなく症状のコントロールが目的です。それに対して認知行動療法は心理療法として知られていますが、脳科学や精神生理学の立場から考えると、非常に合理的な原因治療となっています。
人間も含めた動物は、脳という全自動コンピュータによってこの地球上で生きていくために必要な心身の状態になるようコントロールされています。パソコンであれば、キーボードとマウスでデーター入力してプログラムを起動しますが、動物の場合は五感(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚)と身体感覚を使って外界の情報を脳というコンピューターに入力することになります。
パソコンでは、毎日同じデータを入力して同じプログラムを起動している限り、出てくる結果は同じです。脳というコンピューターも、日常生活において五感と身体感覚からの情報が変わらない限り、症状という結果は変化しません。すなわち、症状がない「健康」という結果がでるよう、意識と五感や身体感覚を使って脳というコンピューターを再プログラミングしていくプロセスが認知行動療法なのです。
特に第3世代のマインドフルネスという概念を利用した認知行動療法では、現実世界である「今この瞬間」に意識を向けておくことで、過去や未来といったデーターベースの情報を元にしたバーチャルな仮想現実からの情報量を減らしていきます。動物が人間のように悩んだりすることが少ないのは、五感と身体感覚からの現実世界のデータを中心に行動しているからなのでしょう。
バイオフィードバック

バイオフィードバックは、意識を本来の場所である「今ここ」に向け、自分の心と身体の繋がりを回復させるために非常に有用な方法です。オペラント条件付けなどの学習理論を基に、自らの生理反応(脈拍、呼吸、手の温度、手掌発汗、筋緊張、脳波など)を測定機器などの道具を使い自己制御する方法を習得していきます。このプロセスにおいて、「今この瞬間」の自分自身の生理機能の変化に意識を向け続けるため、西洋科学的瞑想法とも言われています。
マインドフルネス瞑想

過去から現在、そして未来へと流れる時間軸の中で、人は今現在という瞬間に生きているということをつい忘れてしまいます。瞬間瞬間の自然環境に適応するべく働いている自律神経系、内分泌系、免疫系といった身体機能が、過去や未来を意識しすぎることで現実には存在していない脳内の仮想現実の情報による影響を受け、様々な心身の症状や病気が引き起こされているのです。マインドフルネス瞑想による「今ここ」に意識を向けるトレーニングを行うことで、今現在の情報処理を脳が優先するようになるため、過去や未来のことで悩む不安な自分に振り回されないようになります。
自律訓練法

自律訓練法は、精神生理学に基づく自己暗示を利用したリラクセーション法として、医療だけでなくスポーツや教育など広い領域で行われています。その基本としての「受動的集中状態」が、まさにマインドフルネス瞑想と同じ状態ということができます。すなわち、善し悪しなどの評価を一切せずに決められた暗示の言葉(公式)に意識を向けておくことで、身体のリラクセーション反応(副交感神経優位)が誘導されると同時に、大脳辺縁系の扁桃体(不安・恐怖など)の働きを抑制する前頭前野の働きを高めることができるのです。
呼吸法

横隔膜を使った腹式呼吸を意識的に行う呼吸法は、自律神経のバランスを取るためのとても大切なトレーニング法です。通常は呼吸は無意識に自律神経でコントロールされていますが、一呼吸が約10秒の規則正しい腹式呼吸を行うことで、交感神経(吸気時)と副交感神経(呼気時)の規則正しい切り替えが起こるのです。ストレス環境の中で長期間生活していると交感神経が優位となり、呼吸が浅く不規則になるため十分な酸素と二酸化炭素の交換ができなくなってしまいます。呼吸法により、心拍数、血圧、血液循環、消化機能など自律神経の働きを調節することができるのです。
イメージ法

人はイメージによって今の世界を築いてきたといっても過言ではないぐらい、イメージには大きなパワーがあります。イメージは、人の思考や行動、筋肉運動に影響を与えます。また、レモンや梅干しを想像をするだけで唾液が出るように、イメージは自律神経の働きにも影響を及ぼします。絶えず過去の失敗や未来の心配を考えていることにより、自律神経は交感神経活動が優位になります。自分が望むプラスイメージが日常生活の中でも浮かびやすいようにすることが、ストレスによる症状からの回復にとって重要となります。
プラス思考トレーニング (言語行動療法)

プラス思考やマイナス思考は、普段無意識に使っている言葉の影響を強く受けます。言葉は、その意味だけでなくイメージや感情も一緒に記憶情報として脳というデータベースの中に存在しています。そのため、思考や会話の中でいつもどのような言葉を選択するかにより感情が左右されるのです。日常生活の中でプラス感情を伴う言葉の使用頻度を増やし、マイナス感情を伴う言葉を使わないようにすることで、よりプラス思考で気持ちも楽に生活することができるようになります。
コミュニケーティブ・リラクセーション (タッピング・タッチ)

タッピングタッチでは、指先の腹のところを使って、左右交互に軽く弾ませるように肩や背中などの身体をタッチします。通常は2人でお互いに交互にし合います。「不安や緊張の軽減」、「肯定的感情が高まる」、「信頼やスキンシップが深まる」などの効果があり、一般だけでなく心理、教育、医療、看護、介護など、様々な専門分野での利用が広がっています。研究面でも、リラックス状態を示す脳波でのα波出現率や脳内のセロトニン分泌量が高くなるといった報告がなされています。
参考図書・文献
下記、本サイトの参考図書・文献になります。
書籍 | 著者 | 出版会社 |
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新しい認知行動療法 | エリック・ペパー | 金芳堂 |
補完・代替医療 バイオフィードバックとリラクセーション法 | 竹林 直紀 編著 | 金芳堂 |
薬を使わず病をなおすバイオフィードバック入門 | 辻下 守弘 | 秀和システム |
マインドフルネスストレス低減法 | ジョン・カバット・ジン | 北大路書房 |
10分間瞑想健康法 | ジェフ・ブラントリー | オープンナレッジ |
うつのためのマインドフルネス実践 | マーク・ウィリアムズ | 星和書店 |
心と体の疲れをとるタッピングタッチ | 中川 一郎 | 青春出版社 |
自律訓練法の実際 | 佐々木 雄二 | 創元社 |